介護は、リアルおままごと!(2)~おじいちゃんロボット~
パーキンソン病だったおじいちゃんは、いつもすり足で小刻みに家の中を歩いていた。
まだ幼稚園児だった私には、おじいちゃんの姿がロボットみたいに見えて
楽しくてしかたがなかった。おじいちゃんの真似をしては、おじいちゃんの後ろをついて歩いていたのを今でもよく覚えている。
当時暮らしていた古い家は、部屋から部屋へ移動するためには、必ず廊下へ出ることになる様な作りをしていた。昔の家は、バリアフリーの今時の家のように部屋から部屋へ繋がっていなかった。
おじいちゃんが、いつもの座椅子でテレビを見ているのを確認すると、廊下と部屋を繋ぐ薄っぺらな扉をノックするのが私は大好きだった。
『はーい!』
おじいちゃんは返事をすると、ゆっくりゆっくり立ち上がり、
いつものように小刻みにすり足で私がノックした部屋の扉へ向かい、病気のせいで小さく震える手でゆっくり扉を開けた。
そこにいるはずの私は別の部屋へ移動し、廊下の反対側の部屋から
おじいちゃんの様子を伺っていた。
キョロキョロと廊下を見回して、不思議そうな顔をして部屋に戻るおじいちゃんを見るたびに、今日もおじいちゃんをうまく騙せたと思い、私は扉の向こうでお腹を抱えてクスクスと笑っていた。
その時すでに、おじいちゃんは認知症を発症していた。
大きくなるにつれ、自分はおじいちゃんに酷いことをしていたのではないだろうかと罪悪感を抱くようになった…
介護士になり、自分の母親に当時の話を初めて打ち明けると、母から聞かされた言葉は
私が思っていたものとはまるで違っていた。
『おじいちゃんの認知症?その頃はまだそんなにひどくなかったわよ。』
私は、おじいちゃんをからかって遊んでいたつもりでいたのに、からかわれていたのは
私の方で、遊んでもらっていたのも私の方だったんだ…
介護士になり、よくわかったことがある。
それは、認知症になると全てがわからなくなってしまうのではなく
認知症になるとわからないこともあるけれど、わかっていることも沢山あるのだと。
おじいちゃんは、いたずら好きで
まだ幼かった私を…どんな顔をして見つめていたのだろうか…